「南くんの恋人」や「私たちは繁殖している」で有名な漫画家・小説家、内田春菊氏。
毒親ブームの昨今、毒親の頂点とも言える内田氏の母親について描かれた小説「ダンシング・マザー」を読んだのでレビューします。
性的虐待の話が出てくるので、苦手な方はご注意ください。
▽2018年11月文藝春秋より出版
内田春菊氏のプロフィール
- 1959年8月7日生まれの59歳(2019年3月現在)
- 1984年「シーラカンスぶれいん」で漫画家デビュー
- 1986から1987年に連載した「南くんの恋人」は、これまでに4回テレビドラマ化
- 1993年小説「ファザーファッカー」で第110回直木賞にノミネート
- 1994年「私たちは繁殖している」・「ファザーファッカー」両作合わせて第4回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞
- 1995年小説「キオミ」で第112回芥川賞にノミネート
私生活においては4人の子供のシングルマザー。子どもたちの名前がこれまた超個性的で、一番上から以下のとおりです。
- 長男:在波(あるは)
- 長女:紅多(べえた)
- 次女:紅甘(ぐあま)
- 次男:出誕(でるた)
子どもたちの父親はなんと3人!(下の2人のみ同じ父親)
次女の紅甘さんは現在、春菊さんと同じ芸能プロダクションノックアウト所属のモデル・女優として活躍中。
ちょっとミステリアスでキレイな娘さんですね。
また内田氏は2016年に大腸がんを発症し、現在は人工肛門での生活をされていて、そのことについては既に漫画「がんまんが」を出版済み。
儚げな外見からは想像出来ないほどにたくましすぎる女性ですね!
▽内田春菊氏のオフィシャルサイトはこちら
Shungicuのクはcu – Shungicu Uchida Official Site
▽内田春菊氏の作品一覧はこちら
ダンシング・マザーのあらすじ
内田春菊氏が義父から受けていた性的虐待の話を題材にした、衝撃のベストセラー小説「ファザーファッカー」から25年。
今度は性的虐待が行われていた家庭内を母親の目線から描いたものがこの「ダンシング・マザー」。
主人公・逸子(いつこ)は福岡県で生まれ育ち、得意なダンスで生きることを夢に静徳(しずのり)と共に長崎へ出る。
まもなく2人の娘が生まれるが、静徳は働かずに逸子に暴力をふるうようになる。
ある日逸子はホステスとして働いていたキャバレーで知り合った孝と同棲を始め、静徳との関係は終わるが新たな過酷な生活が待っていた。
そんな中、孝は逸子の娘である静子に対する異常な執着を見せ始め、いずれ性的虐待を加えるようになる。
ダンシング・マザーの感想 ※ネタバレあり
内田氏「母への最後の苦情」
「ダンシング・マザー」は面白い面白くないで語れません。もう、ショックすぎて。
「ファザーファッカー」は既に読んでいて、「私達は繁殖している」シリーズも全部読んでるので、内田氏が義父から性的虐待を受けていた話はよく知っていました。
しかし、彼女が母親目線で娘への虐待を語るのは初めてで、その狂気に私の心はかなりのダメージをくらいました。
内田氏はインタビューなどで「ダンシング・マザー」はフィクションだとおっしゃっていますが、おそらくほぼ実話のエピソードだと思います。
なぜなら今まで散々他の漫画に書き散らしてきた実母と義父のエピソードが満載で、話にブレがありません。
彼らの犯した罪を、この本を描くことによって改めて断罪したんですね。25年前にファザーファッカーを書いたことによって、義父と実母は社会的に大変なダメージを受けたはずです。
少なくとも彼らは故郷で暮らすには世間の目が痛すぎるし、田舎は特に近所の目が厳しい。おそらく内田氏は長崎や地元では有名人なので、両親がそこで住むにはかなり過酷です。
しかし、ファザーファッカーでの復讐ではまだ許すことができず、 内田氏は両親をこの「ダンシング・マザー」によりとどめを刺したのでしょう。
これは彼女の両親には当然の報いだと思います。内田氏には両親に復讐をする権利があるし、本来なら彼らは法の裁きを受け、塀の向こうにいるべき人達ですから。
なんたって、ネグレクト・精神的虐待に加えてあろうことか性的虐待、身体的虐待を何年にもわたって行ったわけですから。法でさばいてくれないから内田氏は自分の手で彼らを断罪しなければなりません。
また内田氏は文春のインタビューでこの本を「母への最後の苦情」と語ってますが、苦情なんて生易しいものじゃない。
大砲ですよね。「ダンシング・マザー砲」。食らったら一発で死ぬやつ。作家の復讐ってすごい殺傷能力です。
男が女を殴っていい時代
逸子(母親)は当たり前のように前の夫からも殴られ、再婚後は新しい夫から、日常的に暴力を振るわれていました。グーで殴られるんです。
以前に西原理恵子氏が公演で「昔は男の人が女の人を堂々と殴っていい時代があったんですよ」話してたいたのを思い出しました。
今の時代なら夫婦間でも暴力を奮ったら傷害罪になりますが、昔は妻がボッコボコに殴られた顔で警察署に行っても、警察官は笑いながら夫を注意して終わりだったなんて話もあります。
確かに西原氏の父親も母親を殴っていたし、高知の漁村ではそんなの日常だって言ってたし、内田氏も母親が殴られてる。
ひょっこりひょうたん島の井上ひさし氏も、奥さんをボッコボコにすることで作品を書いていました。
そしてその奥さんから小説でその事実を暴露されて復讐されました。しかし井上ひさし氏はへっちゃらでしたが。
▽井上氏の妻西舘好子の「修羅の棲む家」
彼女は編集者に「奥さん、ちょっと殴られてくださいよ」と言われて殴られてました。
もちろん当時だって女性には絶対に手をあげない男性もたくさんいたんでしょうが、ほんの数十年前の日本はまだまだ女性の人権などなきに等しかったんですね。
リョウコさんのことを見直した
私はつい先日、ヤマザキマリ氏が同じく自信の母親について綴ったエッセイ「ヴィオラ母さん」のレビューを書いたばかり。
そのレビューでヤマザキ氏の母リョウコさんを散々ディスったんですが、「ダンシング・マザー」を読んでるうちに、
リョウコさんって、神じゃない?
って思えてきました。あくまでもダンシング・マザーの「逸子」と比べるとですが。
もう。。。次元が違いすぎました。逸子を知ってしまった今、リョウコさんに対する見方もすっかり変わりました。
いや、リョウコさんもたいがいなんですが、とにかく逸子だけは別次元の超・ド底辺毒親です。
逸子は娘の静子を、性的虐待させるために夫の孝に差し出すんですよ。自分の身を守るために。さらに夫が娘に欲情していることに対して娘である静子に嫉妬までするんですよ。鬼畜すぎる。
リョウコさんだったらそんな逸子を「あんた、いい加減にしな!」ってバイオリンの弦で殴ってくれそうですよ。
なんか勝手に私の中でリョウコさんの株が急上昇しました。
虐待からは逃げるしかない
静子が激しい虐待を受けるシーンがいっぱい出てくるんですが、一説を引用してみます。
孝はうるさく痛がる静子に腹を立て、引っぱたいてガラス戸に投げ、子供部屋まで引きずって行って、お前はもう学校に行かせんと行って机の中のものを全部ひっくり返し、それでもおさまらずギターが折れるまで殴ったようだ。
静子は理由もなく義父からこんな事をされるのが日常。そして母親は決まってこう言う。
「あんたが普通じゃないからお父様を怒らせるのよ」
父親からは虐待を受け、それを母親に嫉妬される。家に居場所をなくした静子は家出をするんですが、果たして家出以外にこの状況を打開できることってあるでしょうか?
静子に選択肢なんてありません。虐待から逃れるには静子はそこから逃げ出すしか無い。子供の場合はイコール家出以外にありません。
しかし、大人だって家を出たら行くところなんかないのに、子供にとって家出なんてどんなに心細くて不安だったか。。。
後に内田氏は家出した時の心境を「これで私は自由だ!」って幸せだったって語っています。
そりゃあそうですよね。もう虐待されずにすむんですから。
テレビで時々見かける内田氏は、優しく艶っぽい雰囲気もあって、この小説に書かれてるように子供の頃から不思議な魅力のある子だったんだと思います。
でもその魅力ゆえに狂った母親から嫉妬を買い、父親は女性として性暴力の対象にされた。
もう、静子がかわいそうでかわいそうで。。。「あんた、お母さん(私ね)の家に来なさい!」って言ってあげたくなりました。
世の中にはいろんなタイプの毒親が存在する。
特に昭和の時代は、今では考えられない価値観で子育てをしていた親がたくさんいるので、私のようなアラフォー世代はいわゆる毒親を身近に知ってる人も多いのでは?
でも逸子ほどの、毒も毒、猛毒すぎる母親はそういないわ。保身のためにここまで娘を情け容赦なく痛めつけるなんてまさに鬼畜の所業。
まあ、子供を虐待で死なせる親もいますからね。そっちを底辺だといえばもちろんそうなんですが。。。
内田氏、あの家庭からよくサバイブしましたよ!
サバイブしただけじゃなく、家を出たあと逞しく夢を叶えて子供を4人産み、親と同じ轍を踏むことなく子供を愛して育て上げた彼女を尊敬します。
全てがフィクションであってほしい
本当は「ダンシング・マザー」は全部フィクションで、こんな父親と母親は存在しないし、こんな酷い目にあった娘もいない。そうならいいのにと思わずにいられません。
こんなことが本当に行われてたなんて事実はとても受け入れられない。
この母親はもちろん、父親も死刑じゃ足りないくらい最低です。
今この瞬間も、内田さんのような思いをしてる子供達がいると思うと、無力な自分にとても憤りを感じます。
誰だって、こんな思いをしてる子供達をなんとしてでも救いたいと思ってるし、虐待をする大人は全員刑務所に入れてほしいと願っているはず。
これだけ児童虐待が問題になっていても、救い出される子供はきっとほんのわずか。
虐待をされてる子どもたちを救うには、私にできることがなにかないのか。「ダンシング・マザー」、心に重く課題を残す、まさに衝撃作でした。
▽ダンシングマザーについてのインタビューが読めます
母親と絶縁して32年、内田春菊が書いた「母への最後の苦情」 | 文春オンライン
▽電子書籍版「ダンシング・マザー」
▽紙書籍版「ダンシング・マザー」
▽内田春菊氏のその他の作品はこちら
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