田中ひかる薯 明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語
画像引用:婦人公論
「明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語」著者プロフィール
画像引用:プロフィール | 田中ひかる 歴史社会学
田中ひかる 1970年、東京都生まれ
女性に関するテーマを中心に、執筆・講演活動を行っている。
他著書に
- 生理用品の社会史
- 「毒婦」 和歌山カレー事件20年目の真実
- 「オバサン」はなぜ嫌われるか など
私は今回初めて田中ひかるさんを知ったのですが、著書はタイトルを見ただけで読んでみたくなるものばかりです。
次は和歌山カレー事件の本を読んでみます。私は個人的には林真須美氏無罪説にすごく興味があります!
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「 明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語」のあらすじ
江戸末期の1852年、現在の愛知県に当たる西尾藩の藩士の家に生まれた高橋瑞(みず)は、幼い頃から利発な女の子でした。
若くして父親を亡くし、長兄夫婦の元で女中のように扱われていたのですが、父がくれた「学問をやるといい」という言葉を胸に、旅芸人の一座に賄いとして雇われて上京します。
その後、政治家の妾の女中をしたり、短く不幸な結婚生活の中で、間違った衛生観念により目の前で妊婦の死を目の当たりにしたことから、医者を志すようになりました。
しかし明治の世の中では、女は医者になることは許されておらず学校に通うこともできません。
そこで瑞は体当たりで学校への入学を嘆願したり、さらにはドイツへの私費での留学も実現させ、そして女医として大活躍します。
この当時、医者になった女性は何人かいますが、誰の後ろ盾もなく本当に志と身一つで医者になったのは高橋瑞唯一人。
この小説では彼女の波乱万丈なその生涯がドラマティックに描かれています。
明治を生きた男装の女医の感想
私はほんの100年前までのことさえ女性の歴史を知らなかった
教科書にも「原始、女性は太陽であった」と唱えた女性人権活動家の平塚らいてうさんのことが数行描かれてるだけでしたしね。
この小説の端々から、当時の女性がどれほどまでに人権がなく、女性として生まれた時点で人生詰んでいたかを紐解くことができます。
どんなことが書かれているか、いくつか抜き出して紹介しますね。当時の女性たちが可哀想で目頭が熱くなったり、こんな思いをさせた世の中に対してはらわたが煮え繰り返りそうになるのでご注意ください。
当時の女性蔑視その1:産むも地獄、産まぬも地獄
「結婚したら普通、女は産み続けるだろう?そして運が悪いと何度目かのお産で命を落とす。かといって子を産まずにいれば「石女(うまずめ)」呼ばわりされて離縁になる。産むも地獄、産まぬも地獄だよ。」
これは、瑞を女中として雇っていた政治家の妾である絹子のセリフです。
これを読んで思いました。私の母は6人姉妹で、義理の母は9人兄弟です。さらに私の祖母は8人兄弟で、祖父は7人兄弟。
私たちアラフォー世代の親や祖父母世代はそのくらい兄弟多いの普通ですよね?今なら全員大家族スペシャルですよ!
私は2人子供を産みましたが、2人だけでも妊娠も出産も育児は、本当に身を削る思いでした。それでも家事なんかは全部機械がやってくれるから、家事は料理と掃除くらいしかしてなくても。
ところが当時の女たちは、まず水道ないから水汲みから始めるんですよ。
そして川があれば川で洗濯。ガスも電気もないから薪で火を焚いて炊事に風呂焚き。掃除も大人数で暮らしてたら汚れはそれはすごいでしょうから毎日時間がかかったことでしょう。。。
子供を10年以上、時には20年に渡って産み続けてその合間にNoテクノロジーでの家事。
夫には三つ指ついて、姑には好き放題言われ、後継が生まれれば今度は子供に頭を下げ、最後は年老いた両親の介護をして、自分自信は病気になっても病院にも連れてってもらえずに野垂れ死に。
つい一昔前まで、特別な家にでも生まれない限り女の人生ってこうだったんですよ。
でも、兄弟が多い母や祖母の話を聞いても、「ふーん、兄弟多くて楽しそうだね。」くらいにしか思わず、その実、彼女たちがどんな苦労をしていてたかなど、想像もしませんでした。
当時の女性蔑視その2:医者を目指す女は「狂人」が「勘違い女」
女は子宮という「故障しやすい」臓器を抱えているために脆弱で、知能も低いとされていた。また、月経時には精神に以上をきたすとされ(中略)。。。
そもそも女は職業に向かないと信じられている社会の中で、医者を目指そうなどという女は「狂人」か、自分を男並みと勘違いしている花餅ならない女とみなされた。
おうおう、黙って聞いてりゃあ随分言ってくれるじゃあないの。女は体が弱く頭も弱い。月経のせいで精神も異常きたすから仕事などできないと。
上記しましたが、当時の女性たちの労働量をリストアップしてみたら、間違いなく男性よりも働いてますよ。
男性なら早朝から寝る直前まで終わることのない家事をやれたのでしょうか?家事って体力だけじゃなく頭も使いますよね。効率を考えながら要領よく終わらせないと一日じゃ終わりませんよ。
女性は男性よりも体力的なハンデに加えて月経で人によっては心身ともに大打撃を受けながら生きてるんです。男性ならこれに耐えることができるのか、甚だ疑問ですね。
こう言った意見に対して小説の中で高橋瑞さんはこのように反論してます。
助手
「でも、女は医者になる資質がないなんて書かれて、腹が立たないのですか?」
瑞
「腹が立つというよりも、そいつの言ってることが間違ってるとしか言いようがないな。女でもこうして試験に合格して医者をやってるわけだから」
実際に女医になって成功を収めてる瑞の言葉には説得力しかありません。カッコ良すぎる。
当時の女性蔑視その3:一夫多妻制が法的に認められていた
政府は明治3年に、「妾」は妻と同等の2等身であると定められた。(中略)中には妻妾を同居させるものもあり、事実上、一夫多妻制が認められた。
妻の他にも妾を取るということの中には、経済的な理由でそうせざるを得ない女性がいたんだろうと思いますけど、現代日本人の私に一言言わせてもらうならそれは
バカにしてんのか!ですよ。
妻と妾を同じ家に住まわせる?ああ、そんな事を考えて実行して法律までOKにしたバカを木の上から吊るして棒でつついて罵声を浴びせたい。
こういうエピソードを知るほどにフェミニズムが発達していくんでしょうね。
高橋瑞という人
女性蔑視エピソードばかり並べて私は一人で怒り心頭になってますが、当の高橋瑞氏はどんな差別にもあっけらかんと対応して乗り越えていました。
瑞さんは明治という女性がまだ人権を持たない社会下で、「医者になりたい」という志が差別や不条理、法律までも乗り越えて心のままに生きた人です。
今は彼女が生きた時代とは、社会も女性の立場も全然違いますが、彼女の生きた道を知ることは、現代を生きる私たちにとって女の人生を見つめ直す素晴らしいきっかけを与えてくれると思います。
私は読み始めて最初の方は「何この人すごい!かっこいい!尊敬!」と興奮し、もっと読み進めると「え、ちょっとこの人すごすぎる。。。」とテンションが落ちていき、読み終わったら、瑞さんに愛着がわきすぎて自分のご先祖みたいに思えてきました。
追いかけることさえ無理なほど程遠い存在だけど、憧れずにいられない。この本を読んで私が感じた高橋瑞さんはそんな女性でした。
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